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紫色の月光

紫色の月光

第五話「働こう」

第五話「働こう」



<ファミレス ルーナレーヴェ>

 
 世間一般ではコスプレファミレスとか呼ばれているらしいこの施設。しかし店内はファミレスなので、やはり此処に来る客は普通、空腹を満たす為にやって来るのである。

 そしてそんなルーナレーヴェは、ある意味危機を迎えようとしていた。
 食材が無くなろうとしているのだ。これでは何も作れないので商売が出来ない。しかし裏では何でも屋をやっているらしいので、生活には困らないだろう。多分。
 そしてそんな状況を作り出したのはたった一人の白髪の少女である。しかも妙に無愛想な。

「………おかわり」

 彼女――――雪月花・ネオンはそういうと、ウェイトレスの格好をしたバイトの紫伝(絵里)に先ほど盥上げたお子様セットのお皿を差し出した。ケチャップまでキレイに舐めてる辺りが拘りを感じさせる。

「は、はあ……」

 そしてその光景に店内にいる全員が目を丸くしてしまった。何時もは笑顔を絶やさない紫伝(此処では絵里と名乗っている)までもが唖然としているのだから仕方が無い。

「………絵里さん。何皿目ですか?」

 この光景を見た受付のトリアは額に汗を流しながら紫伝(絵里)に尋ねる。

「え、ええと……ジャスト50です」

「うわぁ……」

 此処まで来ると凄いを通り越して呆れる。しかも当の本人はアレだけ食べたにも関わらず、更に食う気らしい。その少女の保護者に当たるのであろう、青髪の男も真っ青である。

「……お前、まだ食うのか?」

 彼、マーティオの言葉にネオンは躊躇いもなしに頷いた。表情一つ変えないところを見ると、どうやら冗談ではないようである。

(……財布持つかな)

 マーティオが怪盗イオとして活発に活動を行っている最大の理由は実を言うと此処にある。無論、盗み事態が好きと言う事もあるのだが、一番の理由はこのネオンの恐ろしいほどの食欲である。詰まる所、食費がかかるのだ。

「………まだ食べる気なのか? 彼女」

 そしてこの店内の店長に位置するユウヤもこの異常事態に目を丸くしていた。

「は、はい………よく持ちますね。お腹」

「確かに……胃袋がブラックホールってのは正にこのことを言うんだろうな」

 ユウヤとトリア、そして紫伝(やっぱり店内では絵里)は天然記念物を見るような目でネオンを見る。

 と、そんな時だ。

「よ、飯食いに来たぜー」

 入り口が開かれる音が聞こえる。其処からやってくるのは神鷹・快斗とリディアのコンビだ。詰まり、もう一人の大食いクィーンがやって来てしまったのである。

「げっ……!」

「タイミング悪すぎだろオイ……!」

 そして刻一刻と時間とともに食材がこの店から消えていくのである。


 ○


<商店街>


 赤髪の少年、ガレッドは頭に大きなたんこぶを作っていた。それを作り出したのはトリガーが片手で持つ『100t』と書かれた巨大ハンマーである。
 だが、コレが果たして本当に100tのハンマーなのかどうかは分らない。

「どうも、ウチの馬鹿猿がご迷惑をおかけしました」

 そういうと、エメラルドの少年。トリガーは深々と頭を下げる。どうやらこっちはガレッドと違って礼儀正しい方のようだ。

「いえ……でも、その猿は縛っておいた方が良いのでは?」

 さり気無く夜夢も酷いことを言ってくれるが、これも当然のことといえる。それだけのことをガレッドはやってしまったのだ。

「いえ、この男は縄なんか無関係です。何せ、テレポートできますので」

「――――――は?」

 言っている事が良くわからないと言うのが本音である。テレポートと言えば、無論一瞬で移動するというあれである。

(あれって、人間が出来る物だっけ?)

 と言うか、ヴァリスでも出来ない荒業である。
 こんなことが出来る奴と言えば何処かの戦闘民族の下級戦士とか、目玉一つのモンスターとかくらいしか出てこないのが現実である。
 簡単に言えば、現実にそんなことが出来る奴がいるはずが無いと思っているのだ。

「あ、信じてませんね。しかも何か変な怪物の映像が頭の中に浮かんでますし」

「え……ええええええええええ!!!?」

 夜夢は飛び退いた。何故なら、思っていることを口にも出していないのに自分が思い浮かべた映像を言い当てたからだ。

「な、何で分るんですか!?」

 夜夢は慌てながらもトリガーに言う。すると、彼は平然とした表情で、

「ああ、貴女の心を読ませて頂きました。いや、中々面白い事を考えていらっしゃる。………え、何この人? もしかして電波?」

 思ったことをそのまんま言い当てられた夜夢は思わず退いてしまった。

「後は………ああ、こんな電波な人たちに遭遇したなんて、皆に何て言えば……失礼な。我々はあくまでマジメです」

「心を覗いたまま言わないで下さい!!」

 と言うか、これはプレイバシーの侵害と言う奴ではないだろうか。此処まで来たらガレッドよりもこの男の方が危険なような気がする。

「さて、そんな貴女の心に直接問いましょう」

 すると、トリガーは何処かのマジシャンのように言う。それと同時、彼は一枚の写真を取り出した。其処に写っているのは10人の団体さんだ。

「心は口よりも正直ですよ。口だけならなんとでも言えますしね。……でも、心は隠す事は出来ない。何故って貴女、正直だからですよ」

 そういうと、トリガーは写真に写っている一人の男を指差した。写真の中央に写っているその男は何とも無愛想な顔である。

「我々はこの人を探して旅をしています。知っていられますか?」

 夜夢はトリガーの鋭い目つきに飲み込まれそうになりながらも、写真をじっと見る。するとどうだろうか。その男は彼女が知っている人物だった。

「あ………これは快斗さんですね」

 しかし、それと同時。トリガーがにやり、と不気味な笑みを見せたのを夜夢は見逃さなかった。

「トリガー」

 ふと見れば、彼の横にいるガレッドも笑っている。

「ああ、ガレッド……ビンゴだ! 別世界の旅を始めて色々とあったけど、7回目の世界で大当たりだ!」

 何かさらりと凄まじい単語が飛び出した気がする。

(……え? 別世界の旅?)

 その言葉を聞いた夜夢は思わず疑問符を上げてしまったのだが、そこで自らの行いを反省する。何故なら、向こうには問答無用で心を覗いてくるプライバシーもクソも無い男とテレポートしてくる変態の凸凹コンビなのだ。
 下手な発言に何を言ってくるか分ったもんじゃない。

「さて、夜夢さん」

 しかし、既に自身の名前まで心を読んで調べ上げたこのプライバシーもクソも無い男はすぐさま次の質問をしてきた。

「今、その人と連絡取れますか? もしくは会えますか?」


 ○


<ルーナレーヴェ>


 店内では激しい事になってきた。事もあろうかリディアとネオンが食い意地を張って次から次へとメニューを頼んでいるのである。

『………』

 その光景を見ている面子はただひたすら絶句していた。
 無論、二人の保護者も絶句状態である。

「……マーティオ。お前も俺と同じ環境だったのか」

 しかし、快斗は何故か同情の眼でマーティオを見ていた。悲しいかな。彼は今まで振り回されっぱなしと言う事もあってか、自分と同じような環境にいるマーティオに更なる友情を感じたのである。

「俺の場合は、何故か懐かれただけだ。それこそ眼の色が同じと言う理由でな」

「え!? たったそれだけでか!?」

 何故かは知らないが、恐らくは自分と同じと言う事で安堵感を得たのだろう。誰だって一人は嫌なのだ。

「ところで―――――」

 今まで邪魔するようで悪かった、とでも言いたそうな目でトリアが快斗とマーティオに話し掛けてくる。彼女が持っているのは今までネオンとリディアが頼んだメニューが書き込まれている用紙である。しかも何故か大きめの用紙だ。

「代金、ちゃんと払ってもらえるんでしょうか?」

 トリアは不安そうな目で二人を見る。
 そして二人は用紙に書かれたメニューを見てみると、

『げっ! 200万オーバー!?』

 幾らなんでも食べすぎな数字が叩き出されていた。因みに、今の彼らの財布の中身はたったの30万くらいしか入っていない。これでも余裕を持った方だと言うのに。

「………マーティオ、お前足りるか?」

「いや、圧倒的に足りない。……お前は?」

「足りるはずが無いだろうがよ」

 それじゃあどうする気だ、と店員の皆さんの視線が突き刺さる中、快斗とマーティオの思考は見事にシンクロした。

『……良い事考え付いたぞ』

 思わずハモってしまうほどのシンクロ振りに、店内の他の皆さんは首を傾げるしかなかった。


 ○


<一時間後 ルーナレーヴェ店内>


 店内は食材がなくなったために閉店してはいるが、中ではちょっとした出来事が起きていた。

「では、早速ご登場願いましょう~」

 紫伝(やっぱり店内では絵里)がマイクを片手に弾んだ声で言うと同時、二人の少女がウェイトレス姿で現れた。ネオンとリディアである。

「うん、中々いいんじゃないか?」

 快斗が言うと同時、他の全員が『うんうん』と頷き始める。実際、二人は結構似合っているのだ。メイドの格好をさせたら普通にメイド喫茶が出来る事だろう。

「あ、あのー神鷹さん。一体コレは……」

 少々不安そうな声でリディアが言うと、快斗は問答無用とでも言わんばかりにこう言い放った。

「ああ、今現在はお前等二人が意地張って食いまくったお陰で、俺たち二人はちょっとした借金状態だ。だから、借金返すまでお前とネオンに働いてもらうって事」

 しかもただ働きである。後100万以上も返さないといけないのだから余程のことがないとすぐには帰れないだろう。それを察したリディアは思わず涙目になる。

「ふぇぇぇぇっ!! 嫌ですぅ! 私は長い間神鷹さんと離れ離れになりたくはありませーん!!」

 前にも言ったが、彼女が最も信頼できる男は快斗なのだ。その快斗と離れると言う事は、彼女にとっては最も嫌な事なのである。簡単に言えば、小さいお子様が両親と離れるのを嫌がるようなものだ。

「ならちょっとは我慢しやがれ! 後、経済を頭に入れて食ってくれ!」

 思わず快斗は本音を漏らしてしまう。しかしコレが当たっているのでリディアは何の反論も出来ないのだ。

「……………」

 しかし、もう一人の少女、ネオンは案外やる気のようである。彼女は無言で力強く拳を握り締めると、何故か挨拶の練習を始める。

「いや、でもネオンはこういうキャラなんだか壊さない方が良いと思うけどな」

 ユウヤがさり気無く言った一言で全員がユウヤに痛い視線を送る。その意味は一瞬にして本人も理解できた。

「い、いや違うぞ! 俺は決して『無口少女萌え~』とか思ってたわけじゃ無いぞ!!」

 必死になる所が怪しいもんだ。
 しかし彼は見た目が10代後半か20代前半にしか見えないが、結婚している身である。俗に言う新婚さんと言う奴だ。更にはその相手が妊娠しているとか言う状況なのだ。そんな時にこんな事を思っていたとか思われたら奥さんから酷い目に合う。
 つまり、彼の名誉の為に言うならば決してそんな事は考えていないわけだ。

「まあ、それはどうでもいいとして……」

 しかし、マーティオがさらり、と何事も無かったかのように話題を流した。しかしあの目は信じていない。あの目は絶対にユウヤの一言を必死で、それでいて無駄な抵抗だと思った目だ。

「残り約140万か……俺たち二人で140万ゲットできそうな仕事を探すしかないわけだな」

「そう言う事になりますね……正直、預かっていたら食費が洒落にならないような気がしますが」

 トリアが汗を流しながら言った一言で、思わずリディアが赤面してから舌を出す。まるでペコちゃんだ。

「そんな事やっても可愛くないぞ」

 しかし、そんな彼女の心を打ち崩すかのように快斗の言葉が突き刺さった。

「うわああああああああん!! 酷すぎます神鷹さん! 折角覚えたのに!」

「いや、何処で何を覚えた貴様!?」

「え? この前行った支社の方の良く伸びる人から……『こうすれば大抵の男はイチコロッス』とか言ってました」

 確かに、男からしてみれば堪らないだろう。しかし生憎この男の鈍さは天下一品である。詰まり、何も感じなかったわけだ。何て野郎だ。
 そしてそれはマーティオも同じだった。幼い時から生きる事で精一杯だった彼らは悲しい事だが異性に恋愛感情を抱いた試しがないのだ。

 まあ、しかし。

 こんな流れで快斗とマーティオのハードな借金返しが始まったわけである。


 ○


<後日 商店街>


 夜夢は溜息をつきながら商店街を歩いていた。何故かと言うと、トリガーとガレッドの凸凹コンビを快斗の所まで案内する事になってしまったからだ。適当に居場所だけ教えればよかったかもしれないが、生憎トリガーは心を問答無用で読んでくる。
 下手したらまた心を読まれてしまうのだ。それよりは普通に道案内した方がマシだと考えたわけである。何せ、彼女だって秘密の一つや二つは抱えているのだ。これ以上読まれて公にされるよりは遥かにマシである。

「お、そこのキレイなお嬢さん。どうですか、この俺と一杯お茶でも――――」

 ガレッドが言ったと同時、彼の脳天にハンマーが振り下ろされた。鈍い音が響いたと同時、ガレッドはばたり、とコンクリートの地面に倒れこむ。

「いや、申し訳ありません。ウチの大馬鹿者が迷惑をおかけました」

 トリガーはハンマーを下ろしながらペコペコとお辞儀している。と言うか、二人は今までずっとこんなやり取りをしていたのだろうか。もしそうだとしたら洒落にならない。
 正直に言うと、非常に疲れるのだ。思わず夜夢の口から溜息が吐き出される。

「夜夢、そんなに落ち込まないで……」

 しかし、そんなテンションダウンの夜夢を支えるかのようにして一人の女性が夜夢の横に立っていた。彼女の名はフェイ。夜夢の姉に当たるヴァリスである。

「ごめんなさい、姉さん。私がこんな非常識な二人と遭遇しなかったらこんな事には……」

「だから気にしないでって言ってるでしょう? 流石にミュータントみたいな二人がいたことには驚きだけど……それに、トリガーさんはガレッドさんとは違ってマトモそうだし、大丈夫」

 そんなフェイの一言に反応するかのようにガレッドが騒ぎ出す。

「ちょいと待った! それだと俺がまるでトリガーよりまともじゃないみたいじゃないの!」

『いや、どう考えてもそうでしょう』

 此処で姉妹のシンクロアタックがガレッドのハートにグサリ、と突き刺さった。自業自得とはいえ、哀れである。

 しかし、そんな時だ。
 幸運な事に、彼らが探している人物――――神鷹・快斗が目の前にいたのである。

「あ、快斗さんですよ」

 その言葉に反応するかのようにトリガーとガレッドは目の前にいる男を見る。そして、どうやら向こうもコッチの存在に気付いたようだ。

「ん? ……おお、ガレッドにトリガーか。久しぶりだなぁ」

『リィィィィィィダァァァァァァァァッ!!!!』

 すると、トリガーとガレッドは何故か快斗に攻撃を仕掛けた。生憎、軽々と回避されてしまったのだが、これはフェイと夜夢を驚かせるには十分すぎた。

「リーダー! 俺達がどれだけ心配したと思ってるんですか! あんな事やっておいて!」

 トリガーが言い放つ。一体この男が以前何をしたと言うのだろうか。

「あのー……話の流れがつかめないんですけど」

「いい所を聞いてくれたぜ夜夢ちゃん。いいかい、リーダーは以前、俺達の世界にいた時、何と大胆にも『人類ランダム抹殺宣言』を出したのさ」

 その単語が出た瞬間、フェイと夜夢の顔色は一瞬にして青ざめる。しかし次の瞬間、ガレッドの脳天に快斗の鉄拳が叩き込まれた。

「あのなぁ、あれは単に敵を呼び込むための宣伝だ。大体、俺は地球上の都市をランダムで壊滅させると言って、人類ランダム抹殺宣言なんて出した覚えが無いぞ」

 あんま変わらないんじゃないかな、とフェイと夜夢は思った。

「しかしトリガー、ガレッド。暫らく見ないうちに随分と逞しくなったな」

 快斗は二人を見て思う。以前に比べたら確かにこの二人は成長しているのだ。ただ、精神的に少々問題があるのだが。

「ええ、本当に大変でしたよ」

 すると、トリガーが頷きながら今までの彼ら二人の大冒険の経緯を話し出した。

「先ず、此処ではヴァリスと呼ばれる機動兵器がヤクトバッシャーとか呼ばれていた世界に行って戦争に巻き込まれて、その後は吸血鬼なりミイラ男なりがいる世界に飛ばされて、その次は昔の中国へ日本の使者として送り込まれて、その次は魔物使いになって対抗戦に出たり、その次は伝説の剣を探す旅に出たり……あ、一番大変だったのは別の世界へと行く度にガレッドがナンパしてそれを止めるのが大変だったことですか。スカートめくりまでしましたし」

 何かどれも凄まじすぎて突っ込み出来ない。

「そうか、ガレッド。ちょっと来い。修正してやる」

 そういうと、快斗はガレッドを引っ張ってビルの中へと入っていく。
 次の瞬間、ガレッドの悲鳴が響いたが、自業自得なので誰も同情しようとはしなかった。

 尚、このビルは大きな字で『ギルド』と書かれていた。ギルドとは簡単に言えば何でも屋集団の様な物だ。詰まり、金さえ払えばどんな仕事でも引き受けて、そして依頼を成功すれば報酬をもらえるというシステムなのだ。
 尚、これには幾つか種類があり、トレジャーハンター向けの『冒険ギルド』やフリーのプロフェッショナルな奴向けの『穴埋め補充員ギルド』とかがある。更に、裏社会では犯罪者が行う『犯罪者ギルド』とか呼ばれる奴まで存在している。

 そう、快斗とマーティオはここで手っ取り早く大金を入手するつもりなのだ。それも意外にマジメに仕事をして、だ。





第六話「因縁のクリスタル・ナイト」


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